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★ニュース『生きいき憲法』
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大学習会の記録
「そ
れでもTPPは間違っている」
日程:2011年5月20日(月)18:00〜20:20
会場:けんせつプラザ東京
講師:鈴木宣弘氏(東京大学教授)
参加者:?人
11月28日の第7回実行委員会で、鈴木宣弘東京大学教授から標記の講演を受けました。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が国民生活に与える巨大
な被害について。要旨は以下のとおりです。(文責・島田)
1 TPP交渉へ日本が参加表明した
国民や政党の意見を聞かないままの参加表明は、民主主義国家の体をなしていない。TPPはFTA(自由貿易協定)の一種だが、自由化の徹底度において
FTAとはレベルがまったく異なる。徹底した「関税と制度」の撤廃を目指す極端な協定であり、食料・医療・雇用など国民
生活を破壊しかねない。TPPに参加するかどうかは、日本のあり方に関する重大な選択である。
人・モノ・企業活動が自由に行き来できる経済圏を作ろうというのがTPP。しかし、実は日本は世界で最も開国された国。製造業の関税は世界で最も低い。
農業も世界で最も開国した国で、野菜や果物は3%程度の関税しかないため今でも外国との激しい競争にさらされている。食料自給率は先進国で最も低く、国民
の体の60%が海外に依存している。
2 日本がTPPに参加した場合のマイナス影響は、まず農業
ヨーロッパでは農業は国境を守る国防機能として重視されているが、日本ではそのような意識が非常に薄い。日本の地域経済は農林水産業をベースに加工や流
通が発達し、商店街ができて、地域コミュニティが成り立っているところが多いが、コメや乳製品などの重要品目の関税を撤廃すれば、日本の田園風景を作って
いる田畑の多くがぺんぺん草しか生えないような状況になる。食料は人々の命に直結する必需財である。「食料の確保は、軍事、エネルギーと並ぶ国家存立の三
本柱」で、食料は戦略物資だというのが世界では当たり前だから、「国民一人ひとりが自分の食料をどうやって確保していくのか、そのために生産農家の方々と
どうやって向き合っていくのか」という議論になるのが通常。しかし、日本では、食料は国家存立の要だということが当たり前ではないというのが事実。食料の
位置づけ、食料生産の位置づけについて、もう一度きちんと考えなければならない。
食糧だけではない。「日本がうらやましい。日本の公的医療制度は適正な医療が安く受けられる。米国もそうなりたい」(コーネル大学教授)。しかし、
TPPに参加すれば逆に日本が米国のようになる。日本も高額の治療費を払える人しか良い医療が受けられなくなるような世界になる。
医薬品・農薬・食品添加物などの安全基準も、米国が採用している緩い基準への調和が求められる。食品添加物でみると、日本では800種類くらいしか認め
られていないが、アメリカは3,000種類も認めている。
さらに、米国企業が日本で活動する際に障害となるルールがあれば、米国企業が日本政府を訴えて賠償請求とルールを廃止させることができる条項も盛り込ま
れる可能性がある。「毒素条項」と呼ばれ、NAFTA(北米自由貿易協定)でもカナダが実際に経験し、韓米FTA
でも入っている。
以上、TPP問題の図式は「TPPの利益をとるか、農業保護をとるか」の二者択一ではなく、日本経済全体に関わる大きな問題である。
3 現場をまわっていて心配していることは
「これから息子が継いでくれて規模拡大しようとしていたのだが、もうやめた」と肩を落とす農家が増えている。TPPは農林水産業の将来展望を暗くしてい
る。そうではなく、TPPの議論を契機に地域全体で前向きに議論して「強い農業」を作っていかなければならない。TPPでは「強い農業」は成立できない。
日本で「強い農業」と言えるのは、規模拡大してコストダウンすることではなく、豪州などよりも小規模なのだから、少々高いのは当たり前で、高いけれどもモ
ノが違う、品質が良いということが、本当に強い農業の源になる。スイスはすでに実践している。そのキーワードは、ナチュラル、オーガニック(有機栽培)、
アニマル・ウェルフェア(動物福祉)、バイオダイバーシティ(生物多様性)、そして景観。生産コストではなく、様々な要素を生産過程において考慮して、丁
寧な農業をすれば、生産された物は人の健康にも優しく本当においしい。このことが国民全体で理解されているから、生産コストが周辺の国々よりも3割4割高
くても、決して負けてはいない。スイスで小学生の女の子が1個80円もする国産の卵を買っていたので、なぜ輸入品よりはるかに高い卵を買うのか聞いた人が
いた。
その子は「これを買うことで、農家のみなさんの生活が支えられる。そのおかげで私たちの生活が成り立つのだから当たり前でしょ」と、いとも簡単に答えた
という。
地域の農地が荒れ、美しい農村景観が失われれば、観光産業も成り立たなくなり、商店街も寂れ域全体が衰退していく。これを食い止めるため、日本でも地域
の旅館等が中心になり、農家の手取りがコメ一俵18,000円確保できるように購入し、おにぎりをつくったり、加工したり、工夫して販路を開拓している地
域がある。こうした動きが広がることこそ、海外に負けずに国産農産物が売れ、条件の不利な日本で農業が産業として成立するための基礎条件である。
この流れが全国的なうねりとなることによって、何物にも負けない「強い農業」が形成される。消費者も、安く買えるからいいと思っていたら、作る人がいな
くなってしまう。買いたたきや安売りをしても、結局誰も幸せになれない。食料に安さだけを追求することは命を削ることと同じで、次の世代に負担を強いるこ
とにもなる。皆が持続的に幸せになれるような、適正な価格形成を関係者が一緒に検討すべきである。それはヨーロッパではかなりできているが、日本はまだま
だ。
4工業品も食料品も関税は低く、食料の海外依存度が60%にも達するほど
世界で最も「開国」された我が国において、さらに「開国」を徹底するというTPPは国家存立の「最後の砦」を自ら明け渡すようなものである。TPPと
「強い農林水産業」は両立しない。地域社会が崩壊し、国土が荒れ果てる中、安全な食料を安く大量に買い続けられると信じて突き進むのが、日本の将来のある
べき姿なのか。輸入牛肉の月齢制限、遺伝子組み換え食品の表示義務の撤廃をはじめとする食品安全基準の緩和、公的医療保険の崩壊、外国人雇用の増大など国
民生活の根幹に関わる問題を国民に説明せずに、「農林水産業の体質強化策を準備すればTPPに参加できる」かのような問題の矮小化は許されない。日本の産
業構造、雇用、国民生活に激変をもたらすTPP問題の本質を開示し、ゼロか100かの極論でなく、現実的で適切な選択肢はその中間にあることを冷静に見極
め、米国との関係に配慮しつつ、アジアとEUとの互恵的な経済連携強化を当面の軸とした長期的な国家戦略を議論すべきである。
アジアがアジアでまとまることは許さない、という米国の戦略の一環がTPPである。米国はTPPを「対中包囲網だ」と説明している。TPPを警戒するア
ジア諸国とTPPに入るアジア諸国でアジアは分断されるから、TPPはアジア太平洋全体のルールにはならない。すでに、ASEANはTPPに対抗して、
ASEANが主導してアジア太平洋地域の自由貿易圏を創設する方向性を提示しており、日本がTPPに入ることがアジア圏の形成にマイナスになると懸念を表
明した。
全国47都道府県のうちTPPに賛成の知事は6人のみ、反対または慎重の決議をした県議会が44にのぼり、全国を訪れると、各道県の地元の新聞はほぼす
べてが反対または慎重の社論を展開している。日本の国土面積の9割はTPPに反対また慎重である。ここにお集まりの皆さん一人ひとりが、ご自身の地域の十
年後の姿をもう一度シミュレーションして、それを自身が必ず支えていく覚悟を新たにし、次の世代も必ず育てる覚悟も新たにし、そのために必要な、現場で本
当に効果が実感できる取組みも提案いただき、その前提として、すべての努力を水の泡にしてしまいかねないTPPの議論を、あきらめずに何とか正常化してい
きましょう。
野田総理は、TPP参加表明にあたり、「日本の医療や美しい農村を断固として守る」と約束した以上、ここでNOというしかないのだからTPPは止められ
る。これ以上、国民を騙すことは許されない。
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