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★ニュース『生きいき憲法』
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大学習会の記録
「大震災・原発事故後の
日本の行方と運動の課題」
日程:2011年5月20日(月)18:00〜20:20
会場:けんせつプラザ東京・5階・大会議室
講師:渡辺治氏(九条の会事務局、一橋大学名誉教授)
参加者:約250人
去る5月20日、九条の会東京連絡会は「この国は抜本的に変えるしかない」と題した大学習会を開いた。そこでの渡辺治一橋大学名誉教授の講演「大震災・原
発事故後の日本の行方と運動の課題」(100分)の要旨は以下のとおりです。
はじめに
今、大震災・原発事故の衝撃、被災地だけでなく広がる日本の政治・社会の行方に対する不安と関心が広がっている。そして、その「復興」のあり方をめぐり
「2つの道」の対抗が顕在化している。3・11以前に対立していた問題が、3・11を機に激化してきている。そこで、@震災前に政治はどこまで来ていた
か、A震災と原発事故はなぜ起こり深刻化したか、B3・11は日本の政治や憲法にいかなるインパクトを与えるか、C私たちの課題は何か、以上を検討する。
震災前に民主党政権下の政治はどこまで来ていたか
対立していた「2つの道」の1つは、反構造改革と反改憲の国民要求と運動がもたらした09年政権交代の道。その結果、鳩山政権は生活保護母子加算復活など
構造改革路線から逸脱し、普天間基地の国外移転や日米密約調査など日米同盟にも疑問を呈した。しかし、この「逸脱」に危機感を強めた財界と保守支配層が
「財政破綻する」「日米同盟危機」と巻き返した結果、菅政権は構造改革と日米同盟路線へ復帰した。これがもう1つの道。しかも、この道はその後TPPの急
浮上、消費税引上、法人税引下、民主党のこれまでの安保防衛政策をことごとく否定した新防衛大綱決定(国連決議なしの派兵、集団的自衛権容認、海外派兵恒
久法容認、武器輸出三原則見直し)、大連立の合唱へと新たな段階へ入っていた。
震災・原発事故はなぜ起こり、深刻化したか
自民党の大企業優先の政治の下で農業や地場産業は保護されなかった。その後の構造改革は地場産業・農業・雇用を崩壊、地方財政危機で医療・福祉・介護の削
減、公務員のリストラと続いた。岩手県立釜石病院と釜石市民病院の統合(07年)は地方財政の悪化が原因であり、病床が大きく削減された。市町村合併によ
る公共部門削減で、市町村の事務は停滞を招いてきた。この構造改革の後に震災が襲ったことから地方の被害は拡大し、復興を遅らせている。日本の原発数はア
メリカ、フランスに次いで第3位だが、狭い国土に54基もあり密集度では世界一であり、壁の高さを20mから5mに引き下げるなどコストダウンや安全基準
を引き下げたことが被害を招き拡大させている。
復興をめぐる2つの道の対抗
復興には利益誘導政治・構造改革政治からの脱却が必要である。具体的には、構造改革即時停止、市町村の再分割、介護・福祉・医療の強化、地場産業の保護、
公共部門の強化、原発即時停止と代替エネルギー、生活スタイルを変えることが求められている。
他方、財界や保守は、構造改革を反省するどころか復興を構造改革強行の梃子にしようとしている。4月6日、経済同友会は「東日本大震災からの復興に向けて
“第2次緊急アピール”」を発表。震災からの「復興」は震災前の状況に「復旧」させることではないとして、また復興を通して「新しい日本を創生」するとし
て、@東北地域を道州制の先行モデルとする、A東北復興をモデルとして国際競争力のある経済圏を創生する、B復興計画は財政健全化の道筋の中で描かなけれ
ばならず「税制・社会保障の一体改革」を実行する、C休止炉の早期再開、を打ち出した。TPP、道州制、法人税引下、消費税増税、構造改革徹底そして原発
維持が彼らの「復興」の中身。農業と漁業を株式会社化し、農民と漁民をその社員とすることを狙っている。また、震災・原発事故を機に日米共同作戦、トモダ
チ作戦、沖縄海兵隊投入、核部隊や無人偵察機を飛ばして北朝鮮との核戦争を想定した予行演習を行うなど、日米同盟強化の路線を進めている。
これらを後押ししているのがマスコミ。3・19朝日社説は、@与野党はこの危機を克服するため大局的な判断に立って力を合わせねばならない、A子ども手
当・農家の戸別所得保障などのマニフェスト予算は全面的に見直すべきである、B被災地復興にできるだけ多くの財源を回すためにも削れるものは大胆に削るべ
きだ、と福祉型財政支出一掃を主張している。3・22読売社説は、「多くの国が日本を支援する中、米国の支援は質・量ともに突出している」と日米強化路線
を賞賛。
そして、「救国政権」の名の下の大連立論が、消費税増税・社会保障削減・TPP加入・普天間・議員定数削減そして改憲復活を加速化させようとしている。
私たちの課題
以上、震災と原発事故を機に「2つの道」がますます激化しているが、そこでの課題は3つある。1つは、当面する緊急対案を打ち出し、大連立を阻むこと。被
災復興の基本原則は地元の意思尊重、財源は国が保障、そして原発の緊急停止。その上で復興のあり方について国民的議論をしていく必要がある。2つは、火事
場泥棒的な構造改革・軍事大国化・改憲策動を許さないこと。消費税・TPP・原発反対は復興のための3本柱だから、それらを許さない国民的大運動を。
TPPは農協と日本医師会が反対しており阻止の可能性はある。3つは、3・11後の復興をめぐり構造改革でも日米同盟でもない「新しい福祉国家」の対案を
示すこと。対案の柱は6点。@大震災での非正規切り・解雇の横行から雇用保障(期限のさだめのない雇用、最低生活費超える最低賃金、失業補償)・社会保障
(学校、医療、保育、介護など不可欠の社会サービスの無料化)の構築、A消費税を引き上げなくてもよい安定財源の確保(大企業の法人税率引上と社会保障税
負担増)、B大企業本位でない地域と中小企業が中心の経済成長政策・地元にお金が落ちる復興、C脱原発・原発にかわるエネルギー政策、D福祉国家型の地方
自治体の実現、E日米安保のない日本の安全とアジアの平和、憲法9条をいかす日本。今回、自衛隊は評価を国民から受けているが、それは銃を捨てたから。こ
れはイラク派兵と決定的に違う。9条が生きる日本への展望を持った。
むすびに代えて
歴史的転換点としての3・11。運動が政権交代を生んだ、巻き返しが菅政権をつくった、震災を機にどちらにいくかが問われている。震災と原発は震災前の私
たちの進路をめぐる「2つの道」の対決をいっそう明確化、顕在化させた。復興をめぐる対抗の焦点としてのTPP、消費税、原発政策そして憲法。
(島田修一記)
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