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特別講演会

「ソマリア沖で自衛隊は何をしているか」


日時:2009年7月27日(月)18:30〜20:40
場所:新宿農協会館8階会議室
講師:半田滋氏(東京新聞編集委員、防衛省担当)
参加者:44人

 第5回交流会の第1部として半田滋さんに「ソマリア沖で自衛隊は何をしているか」と題する特別講演をして頂きました。半田さんは17年間、東京新聞の防 衛省担当の記者(昨年8月から編集委員)を務めてこられた防衛省・自衛隊問題の第一人者で、著書『「戦地」派遣−変わる自衛隊』(岩波新書)はJCJ賞 (日本ジャーナリスト会議が優れたジャーナリズム活動に贈る賞)を受賞しています。以下、飯田さんのお話の要点をかいつまんで紹介します。

▼ 今年の通常国会で「海賊対処法」が成立しました。海賊とは犯罪行為なので、海の警察である海上保安庁が対処するのが第一義なのですが、そこに自衛隊を 派遣しようというのがこの法律です。しかもこの法律が成立する以前からすでに「当面の応急措置」として自衛隊法に基づいて自衛隊が派遣されていました。非 常に異例の展開です。ここにこの「海賊対処法」の特徴があります。
▼ 現地ではどんな様子なのか。その取材のために、私は6月にソマリア沖(アデン湾)に行って自衛隊の艦船に乗ってきました。アデン湾は日本の本州ぐらい の広さがあり、高さ4mの波が立っており、船はほとんど見えなかった。「海賊は出ていますか?」と聞くと「いや、もう海賊はいません」との答。「じゃあ、 なぜここにいるの?」と聞くと「命令だからです」と言う。後日、日本で海上幕僚長に「海賊はもういないようだけどやめられないの?」と聞くと「やめるかど うかは現地の判断なので」との答。どこも責任持って判断しない。いかにも日本らしいが、そんな体制で派遣が続けられているのです。
▼ 3月30日〜7月22日が自衛隊法に基づく警護活動で、その間、計41回121隻の船の護衛をしました。これは国会で議論された当初の想定と比べると 非常に少ない数字で、当然、本当に「応急措置」の必要があったのかという疑問がでてきます。その疑問に対する日本船主協会(護衛の必要性を政府に陳情した 団体)の回答は、まず「世界同時不況のあおりを受けて輸送が去年より減りました」とのこと。これはその通りだと思います。次に「運行スケジュールが合わな くて、警護を受けずに勝手に通行する船が相当数いる」とのこと。実は海賊に襲われる危険性のある船というのは少なくて、船べりが5m以上ある船や船足の早 い船は襲われないのだそうです。ところが実際に警護を受けている船はタンカー、自動車運搬船など、襲われる危険性がまずない船がほとんどです。そして襲わ れる危険性のある船足の遅い小型船は喜望峰を迂回する航路を通っています。これだと2週間ぐらい余計に時間がかかるけど、今は不況なので問題にならない。 むしろスエズ運河の高い通行料を節約できるので喜んで迂回路を行く。警護活動の必要性と言ってもこういう実情なのです。
▼ では、どうして自衛隊法ではなく海賊対処法が必要だったのか。自衛隊法から海賊対処法への切り替えは日本では7月24日、現地では7月29日です。日 本船主協会はこの切り替えを喜んでいます。なぜかと言うと、自衛隊法では警護の対象船舶は「日本関係船舶」に限られていた。具体的には(1)日本船籍、 (2)日本人が乗っている船、(3)日本向けに重要な物資を運ぶ船の3種類だけです。これが海賊対処法に切り替わると、さらに(4)日本人がオーナーであ れば、外国に登録(節税のために)してあり、外国人が乗組員で、外国から外国へ送る荷物を運搬する船でも守れるようになる。彼らにとってはこれが嬉しいこ となんです。日本の税金を使ってこういう船を守ってくれというのが彼らの要望だったのです。
▼ 今、どれだけの自衛隊がこの海賊対処活動に出ているのかと言うと、日本の船を守る護衛艦2隻の他に、海上自衛隊厚木基地のP3C哨戒機が2機、空から の監視活動をしている。このP3C哨戒機を警護するために中央即応連隊という部隊から50人が派遣されている。また8年前から洋上補給艦「ときわ」がこの 海で各国の艦船に洋上補給をしているのですが、それを護衛するために護衛艦「あけぼの」が派遣されている。「専守防衛」であるはずの自衛隊からこれだけの 戦力が海外展開しているのです。
▼ 海賊対処の部隊の全体像は次のようになります。第1はイラク戦争時にアメリカが中心となって組織した多国籍軍、コンバインド・タスク・フォース150 (CTF150)がいまソマリア沖に展開している。日本の補給艦はこのCTF150に対して洋上補給している。CTF150は対テロ軍事行動部隊ですが、 さらに警察活動としての海賊対処部隊がCFT151として分離・新設されました。第2にヨーロッパ中心の部隊としてEUのアタランタ作戦とNATOの二つ がある。前者にはアメリカは入っていないが、後者はアメリカも含むものです。第3にこれらとは別に個別参加している国が日本、中国、ロシア、インドなど 6ヶ国ある。以上で合計20カ国が参加しています。
▼ ソマリア沖の海賊とは何者なのでしょうか。よく漁民説が言われますが、正直なところよくわかっていません。海賊の活動領域は1000kmにも及んでお り、トロール船を母船として大移動して、獲物を見つけたらそこから小型船が出撃するという方式をとっています。これは北朝鮮の工作船と同じやり方で、北朝 鮮の場合、軍だからできるのですが、これを普通の漁民にできるのかというと疑問が残ります。
 もともとソマリアは英仏伊3ヶ国の植民地で1991年に内戦が激化しました。ソマリア自治政府のおかれているプントランドで1999〜2001年に民間 の軍事会社ハートセキュリティ社が海軍作りのための軍事教練を行っている。結局、軍隊はできなかったが、プントランドは海賊の出撃基地になっている。軍事 教練を受けた人が海賊になったのではないかという疑問が出てきます。もしそうなら、海賊はソマリア暫定政府と本当に何の関係もないのかという問題にもなり ます。
▼ 海賊対処のような海上警備行動は本来は海上保安庁の仕事です。今回は「海上保安庁にその能力がない」という理由で自衛隊が代替している。でも海上保安 庁には「しきしま」「やしま」「みずほ」という大きな船がある。ヘリコプターを搭載できる船は13隻あり、これらで十分護衛活動ができるはずです。また海 上保安庁は他国の海軍と連携した経験がないから、という説明もされました。でも実は海上保安庁には他国と連携して海賊対処活動をしてきた実績があります。 東南アジアのマラッカ海峡は海賊がよく出る所で、1999年には日本の船が襲われるという事件も起きた。当時の小渕政権は海上保安庁で海賊対処に乗り出 し、「アジア海賊対策地域協力協定」をアジア14カ国と結んだ。2006年にはシンガポールに「情報共有センター」もでき、6ヶ国の公務員がそこに詰めて いますが、そのトップは日本の海上保安官です。
▼ 海上保安庁のこうした実績を隠してまで、なぜ自衛隊派遣に固執するのでしょうか。その背後には1990年代からの一貫した流れがあると見るべきです。 1991年の湾岸戦争を背景に1992年の「PKO協力法」ができてから、カンボジア、モザンビーク、ルワンダ、東チモール、ゴラン高原などでのPKO関 係の自衛隊海外派遣はもう当たり前のようになってしまった。民主党の政策集インデックスでも「PKOの積極参加」が明確にうたわれています。2000年の アーミテージ・レポートには「憲法9条が正常な日米関係を阻害している」という見解が示され、その後、自衛隊の海外活動はテロ特措法による洋上補給、イラ ク特措法による「人道復興支援」など、新しい段階に入りました。去年、名古屋高裁はこれを憲法9条違反だと判断しましたが、こうした流れの中で日本国民の 感覚のなかに慣れとゆるみが出てきたと思う。「海賊対処ならいいんじゃないか」という世論が過半数を占めるようになっています。今回の海賊対処法は時限立 法ではなく恒久法なので、もし海賊が出つづければ、ずっと自衛隊を派遣し続けることが可能なんです。憲法9条は本当にきわどいところまで来ていると感じま す。

 以上、半田さんのお話のあと、質疑応答の時間をとり、フロアから8人が発言しました。発言と質問の内容は、ソマリアという国について、海上保安庁と自衛 隊の関係について、航空自衛隊の現地での動き、自衛隊の中央即応軍と中央即応連隊について、自衛隊は(ジャーナリストに対して)どれぐらい情報公開する か、日本がソマリアと地位協定を結んで基地を借りて活動していること、それがほとんど報道されていないこと、半田さんの講演活動について、などでした。

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